愛知淑徳大学
ビジネス学部・研究科
真田 幸光 教授

1957年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、東京銀行入行。1998年愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション研究所・助教授。2004年4月より現職。
著書に「アジアの国、日本」など多数。また、NHKクローズアップ現代などTV・ラジオ出演、論文・雑誌寄稿、講演をマルチにこなす、現代の辻説法師。
信条は、最小の効果を挙げる為に最大の努力を惜しまぬ人間たれ。
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先週は溜池、そして八王子でそれぞれ台湾、韓国の一人者の方とお会いしました。そうした席の中でこのお二方に共通した日本に対するコメントは、
「国際社会でビジネスをおこなうのであれば、ものごとをもっと明確にして対応していく必要がある。」
といった主旨のものでありました。
韓国企業経営者にしても台湾企業経営者にしても、自らの行動の目的を明確にし、その目的に沿って現状認識、戦略を立て、それを実行、その上で、その経過を見て再び目的に合わせて現状認識をし、必要に応じて方向修正を図ることが重要であるが、日本企業経営者にはそうした部分が、韓国や台湾と比較すると弱いのではないかとのご指摘でありました。
また、そうした視点に立てば、
「ビジネスは信頼から始まるかもしれないが、ビジネスの目的に合った人ではない人とは、敢えて無理して信頼関係を構築する努力をする必要はない。
日本人は、ビジネス展開をするに際しても情から入り過ぎるのではないか。」
といったコメントもありました。
うーん、確かにその通り、崇高な理念の下、そしてビジネスの厳しさの中で、日本経営も馴れ合いなどといった甘えをせずに、必死で生きていくことも必要性といったものを感じました。
しかしこうした一方で、今週は名古屋では以下のようなお話も伺いました。
こちらも大変重要なお話であると私は考えています。
皆様方は、名古屋で「天むす(てんむす)」という名物があることをご存知かと思います。この天むすとは、塩味を効かせたえびのてんぷらを具にしたおにぎりであり、もともとの発祥は三重県であるとのことですが、今や、名古屋名物として知られるようになっています。
主として尾を取った天然のアカシャエビなどの天ぷらが使用されていると聞いており、高級な海老、高級なおコメ、そして高級な海苔を使って、全て手作りで作られているそうであります。
実は今般、中日ドラゴンズの元コーチである私の大親友・仁村薫さんのご紹介で、この元祖・天むすの女将さんとお会いしたのですが、この女将さんに、
「昔ながらの商人・あきんど」
を強く感じました。
三重県・松坂出身でご実家が料亭であったこの女将さん、名古屋に嫁ぎ、ご主人の時計店のお仕事を見ていて、ご自身が人との貸し借りをせず、現金商売をしながら、人に喜んでいただくものを始めたいと、子供の頃に松坂で食べ親しんだ天むすを大須の小さな店舗で作り始めたのが30年前、今のその大須の小さな店舗を本社に置きながら、全て手作り、多店舗展開は決してせず、天むすの量と質、安全、安心を守りながら、
「食べて戴く人に喜んでもらうこと。」
を理念に天むすを今も作り続けているとのこと。(仁村さん曰く、この天むすの素材は全て最高級品、そして例えば天むすのおにぎりの海苔は端を斜めに切り、切れ端が残るのだそうですが …普通の経営の理屈から言えば、こうした無駄を省かないと生産効率、コスト削減は図れないのですが、こちらでは、敢えてこうした作り方を今も踏襲されています… 女将さんはその残った海苔の切れ端をご縁のある方々やお客様にただで振舞っていらっしゃる、そして、そうした些細なことでも喜んでくださる皆様の顔を見るのが嬉しいと仰っていますが、仁村さんは、その海苔の何と美味しいことと語り、わざわざその海苔を戴きに女将さんを訪ねることもあるのだそうです。)
中日ドラゴンズの二軍選手たちもこの女将さんのお世話になっており、また、たくさんの俳優や落語家の皆さんも駆け出しの頃から女将さんの情に支えられ、発展されたと仁村さんから伺いましたが、正にそのままの女将さんでありました。
今日、何でもかんでも欧米的なビジネス・モデル、利益優先、特に短期的、短絡的な利益優先が重要視される風潮があるように私には感じられますが、この女将さん、
「私の目の黒いうちは、人の喜ぶ顔を見るために天むすを作り続けたい。」
と仰り、新しい販売展開をするに際しては、自らがワゴン販売の担当として、お客様に接しながら頑張りたいと仰っています。
こうした心意気のある商い、世界にも拡大していくと本当はよいのですがーーー。
自分勝手で利己的なビジネスしか見えなくなってきている昨今のビジネス社会、何とか良い意味での古きよき伝統を取り戻していきたいと私は考えます。
甘いと多くの皆様方は思われるかもしれませんが、敢えて、素敵な女将さんのお話を今日はご紹介させて戴きました。
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