専門家コラムColumn

発達障害×RPA人材 ~障害の個性にスポットを当てたRPAエンジニア育成プログラム~

2019.08.08

 前回の記事で、これまでの障害者雇用の現場での「画一的な業務を切り出す」というやり方から、「個々の能力を発揮できる仕事を探索していく」というパラダイムシフトが生まれる可能性があるとご説明しました。今回はその事例として、就労移行支援事業所アーネストキャリア(以下アーネストキャリア)の「RPAエンジニア育成」の取り組みをご紹介したいと思います。※「RPA」については文末参照

◆能力を活かせる職場が少ないという現実

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 最初に、少し個人的なお話をさせていただきますますと、私は以前、発達障害をもつ小中学生に、好きなことや得意なことを伸ばすお仕事体験教室を提供するNPOでボランティア活動をしていたことがありました。この教室に通う子どもたちの多くは、コミュニケーションが苦手なため、学校に馴染めず不登校を経験していることが多いのですが、一方で一般の子どもたちには無い秀でた才能や集中力をもっていることも少なくありませんでした。特に、プログラミングなどのIT分野で能力を発揮する子どもが多く、協力していただいている企業の方も、そのスキルと集中力に大変驚いていたことが印象に残っています。

一方、この子どもたちが将来どのような職業に就くのか、障害者雇用枠での就労とはどのような仕事があるのかと考えた時に、前回ご説明したように、事務作業や軽作業など一気に職業の幅が狭められてしまう可能性が高いのが現実です。一般の人には無い才能があるのに、それを発揮できる場がない、選べる職種があまりに少ないという現実に大変残念に思いました。

このような問題意識をもっていた時に、精神障害をもった方の特性がRPAエンジニアに向いているのではないか、という話を耳にすることがありました。あまり知られていないかもしれませんが、精神障害者の一部の方の中には発達障害をもつ方がおりIT能力が高い方も少なくありません。そこで、実際に就労移行支援の中でRPA人材の育成をおこなっているアーネストキャリアの水野代表にお話を聞かせていただきました。


◆就労移行支援で「RPA人材育成」を開始

 『アーネストキャリア』は就労移行支援事業所ですが、これからの情報化社会で活躍するための、IT・WEB分野のスキル習得に特化した人材育成機関でもある点が特徴で、国内で唯一IT・WEB特化型就労移行支援をしている団体です。2017年に代表の水野さんが「障害者でも希望を持って生き生きと働いてもらえるよう、可能性や機会を提供していきたい」という想いから起業されています。

同社が特に力を入れているのが、精神障害者の中でも発達障害者へのITスキル教育支援から就労支援です。私が注目したのは、IT・WEB研修プログラムの中にRPA人材(シナリオ設計)育成のプログラムがあるという点でした。個々の習熟度や受講できる時間帯に合わせてチャットを利用したオンラインでの完全マンツーマン指導で学ぶことができます。対面でのコミュニケーションが苦手な発達障害者の特性に合っている研修スタイルだと思いました。
なぜ、発達障害者とRPA人材(シナリオ設計)がマッチするのかというと、発達障害の一部である「自閉症スペクトラム障害」は、先天性の脳の障害で、そのため臨機応変な対応が苦手であり対人コミュニケーションでは苦労される方が多いことが傾向としてあります。一方、仕事を曖昧にせず正確に遂行し、コツコツがんばり続けることができるという特性もあります。これが、RPAのシナリオ設計の仕事にマッチしているということです。
また、同社は、『RPA NEXT』などの事業会社と連携し、育成後の就職先を見つけるところまでのサポートができることも事業の強みとなっています。今後は、地方の障害者の方々に対して、カリキュラム修了後に在宅で仕事ができるような環境整備も目指していくというお話も伺いました。

<参考>
◎RPA NEXT
発達障害者の特性を活かしたRPAエンジニアの育成プログラムを開始

アーネストキャリアがRPA人材育成に力を入れ始めた背景には、上記の理由以外に、RPA業界で深刻なエンジニア不足が起きているという問題があります。人材会社ビズリーチが昨年11月に発表した調査によると、「RPAエンジニア」の単語を含む求人数は前年比9.1倍、最高年収が2,000万円となっており、RPAエンジニアのニーズの高まりと業界全体としての人材不足がうかがえます。つまり、同社の取り組みは、企業サイドと発達障害者サイドとのニーズがマッチする事業だということです。

<参考>
人手不足で「RPA人材」の需要拡大 求人数は前年比6倍、年収3000万円の案件も

◆ダイバーシティ×テクノロジー

 最後に、実際にアーネストキャリアから人材を受け入れたRPA NEXT側のお話を紹介いたします。RPA NEXTでは、アーネストキャリアでの支援プログラムを修了した方を、RPAエンジニアとして昨年7月から受け入れています。同社では、障害者雇用枠ではなく一般就労枠でその方を採用し、RPAエンジニアとして育成しているとのことです。受け入れた方は発達障害をお持ちの方ですが、障害の特性に合わせた働き方(在宅とオフィス出社とのバランス、研修受講スタイルの選択など)を認められており、スキルアップを目指して日々仕事に励まれているとのことでした。

このように、企業側(受入れ側)の経営課題とこれまで就労から遠ざかりやすいとされてきた人の個性がマッチすること、障害など継続した就労に困難がある人もやりたい仕事を目指していける環境、このようなことがダイバーシティの実現と言えるのではないかと思います。そして、ダイバーシティの実現には、テクノロジーの力が大きく貢献できる領域が少なくないのではないか、そんな可能性を感じます。

※ RPAとは:Robotic Process Automation (ロボティック・プロセス・オートメーション)の略。ホワイトカラーのデスクワーク(主に定型作業)を、パソコンの中にあるソフトウェア型のロボットが代行し自動化するもの。

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これまでもプログラム開発などの仕事はありましたが、なぜRPAの登場により発達障害の方の雇用機会が創出されているのでしょうか。その背景には、AIなど技術の高度化や要求機能の多様化に伴うシステム構造の変化があると思います。
以前は、大型のシステムをプロジェクトチームで開発するという開発モデル(ウォーターフォール型)が主流でした。このモデルだと、技術力はあっても対人コミュニケーションが苦手な発達障害の方は活躍しづらかったのではないかと思います。しかし最近は、アジャイル型という開発モデルが増えて来ています。アジャイル型とは、「システムを機能ごとに切り分け、切り分けた小規模チームごとに短期間で開発を行う。それぞれ検証を行い短期間で最適化していく。それを必要に応じて連携統合していく」というモデルです。RPAもこの考え方の延長線にあるシステムだと思いますが、このモデルは発達障害の方にマッチしているのではないかと考えます。
 
今後も、「AIなど技術の高度化やシステムへの要求機能の多様化」は進んでいくと思います。それに伴い、システムの軽量化、単一機能化(必要に応じて他のシステムとAPI連携)の流れも進むと思われます。AIなどのテクノロジーの発達で単純作業の自動化が進み、それまで障害者が職場で行っていた作業が奪われていく反面、RPAエンジニアのような新たな就業機会を創出しているという面もあるということだと思います。

 

AI時代に人々の働き方はどうかわるのか?

来栖 香 Kaori Kurusu

ソリューション推進本部 DX推進部

外資系PCメーカーのコンシューマー部門を経て、2010年にキューアンドエーに入社。広報・CSRを担当し、2018年4月よりAI事業戦略本部 マーケティング部に着任し現在に至る。
AI事業に携わる中で、AIが私たちの働き方に与える変化について考えるようになり、AI時代の働き方・生き方を研究中。
プライベートでは、2枚目の名刺としてCSR専門誌「オルタナ」にて、CSRに関する記事も執筆中。
立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)。